アザミの箱庭 「バリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は大好きなお兄様を守ります」
 バーバラの、オーウェンの、オリヴァーの嫌がらせに耐え続けて三ヶ月が経った。
 お父さんの妹と従兄弟たちの要求は、この家の権利書と亡くなったお父さんの財産なのは明白だ。

 ……

 ある日。
 ()()()は、唐突に訪れた。

 がたーん。
 心臓に響くすごい音。
 すぐに分かった。
 お兄ちゃんに何かあったんだ、と。
 懸命に走った、小さな足をくるくる回して。
 二階の自室から()()までの数秒がとても長く感じた。
 そして、私は認識する。

 階段の下で仰向けに倒れた、お兄ちゃんを。
 その頭の下の真っ白な大理石に広がる、赤い血を。

 階段の上でたじろぐ双子を。

「あんたたちっ……! おにいちゃんになにしたのよっ!」

 わたしは駆け上がって、双子に詰め寄る。

「ち、違う、僕たちは話してただけだ」
「そ、そう、話してただけ」
「勝手に転んだんだ、見てる目の前で!」
「そうだ、転んだんだ!」

「おのれっ……!」

 私は平手打ちを見舞おうと、手を振りあげた、その時。

「なりませぬ、お嬢様!」

 お父さん専属だった、執事のピエールが静止した。

「ファーンズワースの未来を担う子女が、手を上げるなど! それよりなにより、今はお坊ちゃまをお助けしなければ! メイド長、メイド長はおるか!」

 ぱたぱたとメイド達がお兄ちゃんの傍に駆け寄り、応急処置をしていく。
 私は……何も出来なかった。
 お兄ちゃんを助けることも、あの双子──いつの間にか居なくなっていた──を叩くことも。
 ピエールさんに、言い返すことも。

 なにも、出来なかった。

 ……

 お兄ちゃんは半日経っても意識が戻らない。
 お医者さんは、険しい顔をしたまま。
 四歳の幼女が付け入る隙はなかった。

 お兄ちゃんの部屋を後にした。
 幽霊みたいな顔をして。
 白い、庭園に続くドアを開けた私の目に入ったのは──

 七月の暑さにも負けずに凛として咲く、大好きな紫色のアザミたち。

 ……涙が、ぼろぼろと零れた。

 大切なお兄ちゃんを、守れなかった。
 ちくしょう。悔しい。
 ひどいよ。悲しい。

 いいや、違う。
 ひどいのは私だ。
 守れなかった、力のない私が。

 悔しい。悲しい。
 ……憎い。
 神様、この気持ちはどうしたらいいの?
 憎くて憎くてたまらない。
 自分が。
 憎い。
 憎くて、憎くて──

「呼んだ?」

 振り返ると、あの子(シッスル)が、立っていた。
 お日様みたいな柔らかい、笑顔で。
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