アザミの箱庭 「バリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は大好きなお兄様を守ります」
「アルベルトさん、大丈夫かい」
「なにがよ」
「いや……お前さんのレベルだとちと厳しい相手だぞ」

 オレは、はん、と息を吐いてやった。

「だからやり甲斐があるってもンだろが。この黄金の鎧に賭けてな」
「黄金って、お前さんのは真鍮じゃ……もがもが」
「細けーこと気にすんなって。じゃ、行くわ」

 オレは愛用の剣を鞘に収め、金の竜が描かれた盾を背負った。
 描かれてる絵は、鍛冶屋のバイトの絵描き志望の女の子に描かせたもんだ。
 本当はただの鉄の剣、鉄の盾。
 それでも、オレの心の奥底に、勇気が灯るのを感じる。

「しゃあっ、行ってくるぜっ!」

 オレはギルドの扉を軽快に開け放って、そう高らかに宣言した。

 ……

「つまり……仲間への復讐は希望していない、と?」
「おう!」
「いいの? すーっとするよー? きもちいよ?」
「おう!」
「……あのね。こう見えてわたしだって復讐神やらせてもらってるからね」
「おう!」
「貴方の心の中くらい、見なくてもわかるんだけど」
「おう!」
「ホントは悔しいんでしょ。見返してやりたいでしょ」
「おう!」
「ねー? いい子だから、『お願いします』とおっしゃいな?」
「おう!」
「……」
「おう!」
「……だめだわ、コイツ」
「おう!」
「じゃあね、モブ子ちゃんと元気でね?」
「おう!」

 ……

 はっはっは。

 やったぜ。
 あいつ、復讐「神」とか言ってたっけ。

 オレ──
 神様相手にテメェを通したぜ。

 はっはっは。

 ざまーみろー!

 はっはっは……

 はあっ、はあっ……

 ……てててて。
 くそ、アバラ折れてるな。
 左手が上がらねえ。
 肩もやっちゃったかな。

 でも、やったぜ。

 これで村の水源を牛耳るリザードマンの親玉と手下ども、まとめてやっつけてやったぜ。

「はっはっは! ざまーみろー!」

 オレは大声でひとり、勝利の雄叫びを上げた。

 ……

 村の水路に、一週間ぶりに水が流れた。
 この水路は村をぐるりと周っている。
 だからもちろん……
 村の入口にも清い流れを作っている。
 モブ子(仮称)は、五分に一回、ここに立ち寄って桶に水を汲む。
 七日前から、水を汲むフリをしていた、モブ子。
 見ろよ、モブがバグってるぜ。
 そんな悪口、見返してやりたくて。

「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」

 はっはっは! ざまーみろー。

 水のたっぷり入ったバケツを持って微笑むモブ子(仮称)は、今日はなんだかとても誇らしげだった。
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