アザミの箱庭 「バリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は大好きなお兄様を守ります」
「久しぶりだねえ。アルベルトくん。……モブ子ちゃんとは仲良くしてる?」

 四年ぶりに会った復讐の女神様は、這いつくばってもう動けないオレに、昨日会ったみたいに話しかけた。

「なあ、オレ、死ぬのかな」
「そうだね。あと〇.六三秒後には命を落とすね。……でも、初めてよ」
「なにが」
「貴方が黄金竜に戦いを挑んだのは」
「そりゃそうだ。今が初めてで、それでこんなにやられて」
「いいえ」

 シッスルはしゃがみこんで、オレの顔を覗き込んだ。

「あなたは黄金竜のもとを訪れては、戦うことを選ばず、その鎧を手に入れ、故郷のリンクスに帰っていた」
「……そんなこと、覚えちゃいねえ」
「黄金の鎧はね。黄金竜が、自身を倒さない代わりに与える、言わばニセモノの勇者の証。前世の貴方はそれを以て、自分を追放したパーティに戻っていたの」
「前世……?」
「そう。貴方はわたしに記憶を対価に、そうやってパーティの人達に一泡吹かせるため、わたしと復讐の契約をしてきた。ずっとずっと、それを繰り返してきた。……だから、今回が初めてなの。わたしに復讐を依頼せず、かつ自分から黄金竜と戦いを挑んだのは」
「……ってことは、オレは……」
「そう」

 シッスルはにっこりとわらって立ち上がった。

「転生者なの。もう百回は同じプレイヤーを繰り返してるけどね」
「そう……だったのか……」

『長らくこの世界に留まると、転生してきた記憶を忘れてしまう人もいるんだとか!』

「そんなに繰り返して、オレは何を成そうとしていたんだ?」
「成そうというより……取り戻したかったのね」

 くるりと後ろを振り返る彼女に、オレは恐る恐る聞いてみた。

「なにを……取り戻したかったんだ?」
「黄金竜から。リンクスの村を」
「……へ?」
「いつも通り記憶を対価にパーティにもどったあなたは、リンクスを出て旅に出た。そして北の魔王を討伐を目標にする。その間にね。……灰にされちゃうの。リンクスの村。……黄金竜によって」
「黄金竜が……?」
「そう。そういうイベントがね、終盤起こるのよ。そして貴方は、愛する女の子を喪う」
「それって……! まさか!」
「そう、そのまさか」

 にっこりと残酷な笑顔で、復讐の女神は、告げた。

「ハンナ・ベルは、村の入り口で真っ先に灰になって死ぬ。過去の貴方が、黄金竜を倒さなかったから」
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