アザミの箱庭 「バリキャリウーマンの私が幼女に転生したので、次は大好きなお兄様を守ります」
 きゃああああ。
 いゃああああ。

 叫んでいるのは、私……?
 そか、私なのね。
 そう気づいた時には意識が宙を舞っていて、お兄ちゃんの腕の中に倒れ込んで意識を失った。

 ……

「うわああん、うわああん」
「見ろよ、オリヴァー。まるでネコみたいに鳴いてるぜ」
「だしてえ、だしてえ」
「うん、オーウェン。ネコみたいだね」
「ああああん、ああああん」

「なにしてるんだよっ、やめろよっ」
「よお、レイモンド、お前のとこの貰いっ子、まるでネコみたいだぜ?」
「そーそー。ネコみたいだぜ?」
「どけよっ! ……いま開けるからな、アリッサ! 大丈夫、お兄ちゃんが今行くからな!」
「おにいぢゃぁぁあん! ああああん」
「『おにいぢゃあん』だってさ……ははは」
「だってさ……くすくすくすくす」
「どけよっ、あっちへ行けよ! ……アリッサ……」

「おにいぢゃん、おにいぢゃん」
「もう大丈夫、大丈夫だから」

「おにいぢゃん」
「ねえ、おにいぢゃん」

「こんどはわたしがまもるから」
「ねえ、おにいちゃん」

「ねえ」

「ねえ、貴女」

 ……

「復讐、したくない?」

 ……

「はっ!」
「アリッサ! ……気がついた?」

 気がつくと私は、ベッドの中からちょこんと顔を出していた。
 お兄ちゃんはずっとそばに居てくれたみた顔いで、私が目を覚ますとすぐに覗き込んできた。
 ちくり。
 いたっ。
 指先に何かが刺さった感触がして、ベッドから()()をゆっくり引き出すと……

 紫色をしたアザミの花が一輪、出てきた。

「また摘んできたのかい? ……アリッサは好きだね、アザミ(シッスル)が」

『シッスルよ、わたしの名前。花言葉は、復讐』

「ひどい奴らだよね。僕たちの家を乗っ取るつもりなんだ」
「ねえ、お兄ちゃん。貰いっ子って……」

 お兄ちゃんはキッと真剣な眼差しで語気を強めた。

「そんなの、気にしちゃダメだ! アリッサは……アリッサは」

 そして、下を向いて涙した。

「僕の、たったひとりの大切な家族なんだから……」

『覚えておいて。復讐は美味しい前菜(オードブル)。貴女が幸せになるための、美味しい美味しい、ごちそうだよ』

 紫色のシッスルが、そう耳元で囁いた。
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