院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「……わかりました。とりあえず今日のところは帰ります」
「それがいい。俺もすぐに帰る支度をする」
「いえ、さっきも言いましたがひとりで帰れます」
「今夜は院長も愛花先生と食事に行くから遅くなるそうだ。それできみの護衛を頼まれたわけだから、ひとりで帰らせたとバレたら俺が殺されてしまうよ」

 千石先生はそう言ってふっと苦笑する。院長としては立派に見える父だが、母や私たち姉妹には昔から大甘なのだ。

 中でも母のことは特別溺愛しており、私たち姉妹が成人してからは暇さえあれば必死にデートに誘っている。

 今日の食事も父から熱心に母を口説いたに違いない。

「自分勝手かつ過保護な父で申し訳ないです……」
「いや、院長の話がなかったとしても個人的に心配だった。きみがいつも残っているのは知っていたが、こんなに遅くまでとは知らなかったから」

 そう話しながら、千石先生が白衣を脱ぐ。そのままためらいなく上半身のスクラブにも手を掛けたので、慌てて回れ右をした。

 更衣室で着替えればいいのに、千石先生は少しものぐさなところがあって、急いでいるとこうして医局で着替えたり、ものを食べたり、居眠りをしたりする。

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