一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
「そうだな……。焼きそばに限らず、屋台にありそうなソース系の料理はだいたい好きだ。粉ものとかな。あとは、先月名古屋で食べたあんかけスパゲッティも美味しかった。腹にガツンとくる量と味付けで」
「なんだかB級グルメばかりですね」
「ああ。子どもの頃に食べさせてもらえなかった反動だと思う。うちの実家はフォークとナイフを使うような堅苦しい食事ばかりで……」
柊二さんはそこで言葉を切り、なぜか口をつぐんだ。首を傾げて彼を見つめると、彼は少し緊張の面持ちで深呼吸をする。
「そういえば、俺の実家についてまだ話していなかったよな」
「ご実家……はい。お兄さんが父の患者だったという話は聞きましたが。あとはいずれ、ご挨拶に伺うことくらいしか」
そんなにかしこまってどうしたのだろう。子どもの頃からナイフとフォークを使う食事ばかり、という話もちょっと気になった。
マナーに特別厳しいご家庭なのだろうか。
「昔の日本に財閥と呼ばれる富豪の一族が存在していたのは知っているな」
「財閥? ……はい。今は解体されているとはいえ、その一族が経営する会社は今でも日本経済の中心にいますよね。……というくらいの、浅い知識しかありませんが」