一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 その財閥がどうしたというの? 柊二さんの実家……千石家。えっ? 千石ってまさか。

 信じられない思いで、柊二さんの顔を見る。彼の複雑な表情は、私の抱いた疑問を肯定しているようだった。

 かつて日本にあった数ある財閥の中に、千石の名を聞いたことがある。そして現代でも、千石グループという企業の名を知らない者はいない。

 そこまで珍しい名字というわけでもないし、柊二さんの職業は外科医だから、関連づけて考えることはなかったけれど……。

「柊二さんって、あの千石家の一員なんですか……!?」
「やっぱり驚くか。隠していたわけではないんだが……創業家の血筋なんだ」
「驚きますよ……。医学部の頃から周囲にはある程度家柄の立派な人たちが多かったとはいえ、千石グループとなるとちょっと別格というか……私にとっては王室みたいなイメージです」

 総合商社をはじめ、銀行や不動産企業、科学技術系の会社まで、街を見渡したら必ず千石グループに関わる何かが目に入るであろうというレベルの、超巨大企業。

 その創業家の血を引いているなんて、セレブどころの騒ぎじゃない。

 呆気にとられたままリビングに到着すると、柊二さんは私をソファへ促した。

「王室ときたか。じゃ、杏はプリンセスだな」

 彼はそう言って、腰を下ろした私の前に跪く。それから優しく掴んだ手の甲に、軽くキスを落とした。

 ついドキッとするけれど、今はそんな風にふざけている場合じゃない、と思う。

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