一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
指導医千石柊二の嫉妬
杏との同居生活を始めて一カ月が経った。多少強引だったとはいえ、彼女の両親を巻き込んで結婚話を進めたのは正解だったと思っている。
これまでも杏とは職場でよく顔を合わせていたが、病院内ではどうしても【指導医】として振舞わなくてはならず、たとえばエレベーターにふたりきりで乗っていたとしても、いきなり抱き寄せたりするわけにはいかない。
すました顔で彼女にオペの要点を説明しながら、杏は今日もかわいいなとかいい匂いがするなとか、彼女もこうして俺のことを一秒でも考えたりするのだろうかとか、そんな雑念に思考を邪魔されてばかりで、悩ましいことこの上なかった。
しかし、家に帰れば我慢しなくていいのである。
杏も体を重ねることにはまだ抵抗があるとはいえ、この一カ月で口づけやハグには彼女なりに応えてくれるようになった。
朝目覚めた時にキッチンに立っている彼女を見つければおはようのキスをねだり、杏が酸欠で顔を真っ赤にするまでその小さな口をかわいがってやるのが習慣。
職場から一緒に帰ったときは玄関に入った瞬間に抱きしめて、一日の疲れを癒す。
それから体重の軽い彼女をひょいと抱き上げてリビングのソファまで運び、膝の上に乗せてたっぷりの時間抱きしめる。
充電、というやつである。