一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
それが済むと、夕食だ。俺は料理ができないし杏にもあまり負担をかけたくないので、帰宅途中で買うか宅配で頼んだ食事を囲むことが多い。
杏が何か食べている姿を見るだけで幸せな気持ちになるので(膨らんだ頬がちょっとハムスターに似ていてかわいいし)、俺は自分が先に食べ終わった後でもじっくり彼女を観察しては口元を緩めている。
同居生活の中で唯一苦しい時間は、それから寝るまでの間である。
「柊二さん、お風呂いただきました」
律儀な彼女は、自分が先に風呂を済ませた後必ずひと言そう告げに来てくれる。
シンプルな紺のパジャマ、乾かされたばかりの艶めく長い髪、化粧などしていなくとも滑らかできめ細かい白肌、温まってほんのり赤らんだ頬。
極めてプライベートな彼女のそんな姿は病院では絶対に見られないので、神様ありがとうと心の中で手を合わせたくなる。
しかし、俺も男である。風呂上がりの杏をかわいい綺麗最高だと思うだけで済んだら苦労はしない。
「あ、それっ。『月刊中枢神経』の最新号ですね! 今月は何の特集でしたっけ?」
ある夜、リビングのソファで医学雑誌を読んでいると、風呂上がりの杏が目ざとく気づいて隣にやってきた。
杏はこちらから接近すると照れる癖に、自分から俺に近づくときは無防備なことが多い。
雑誌を覗くと必然的に俺との距離が縮まることに気づいておらず、髪や肌からふわふわといい香りを漂わせながら、遠慮なく俺に寄り添った。