一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
意識が遠のきそうな状況だが、なんとか理性を保って彼女の疑問に答える。
「今月は、『海馬特集』だ。読みたいなら貸そうか?」
「でも、柊二さんがまだ途中なのに」
「どこまで読んだかくらい暗記できる。杏が終わったら、また続きを読むよ」
雑誌を閉じて差し出すと、杏は両手でそれを受け取り大切そうに胸に抱いた。
「しおりも挟まないで覚えておけるなんてすごい……。ありがとうございます、早めにお返しできるようにしますね」
素直に感心してくれるキラキラした瞳が眩しくて、胸が激しく高鳴る。
こんなにも邪気のない彼女を今すぐ押し倒したいと思っているなんて、俺は本当に邪な男である。
時々彼女と一緒に見る例のアニメでたとえるなら、オトメの想い人である勇気くんとかいうヒーローキャラではなく、独身男爵ヒトリミーノとかいう拗らせた悪役の方が似合いそうだ。しかし、彼はオトメに愛されることなく成敗されてしまう。
そんな結末切なすぎるだろう。……俺はなんとしてでも勇気くんであろうとしなければ。
「杏」
理性という理性を体中からかき集めた俺は、彼女の頭にそっと手を置いて微笑んだ。