一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 十月に入ると、ようやくうちの親と会う都合がつき、顔合わせがようやく実現することになった。

 タクシーで実家に向かう中、隣に座った杏は見るから緊張していて、手土産の入った紙袋を何度も確認したり、鏡を覗いて自分の身だしなみを整えたり。

 俺の口からそんなに気にしなくてもいいと言っても、あまり効果はないようだった。

 到着した千石家の屋敷では、門から本邸まで車で移動することや、玄関で俺たちを出迎えた大勢の使用人に杏はすっかり怖気づいてしまい、逃げ腰になる彼女の手を無理やり引いて、長い廊下を進んだ。

 天井が吹き抜けになっている広々としたリビングダイニングには両親がすでに揃っており、俺と杏の姿に気づくと寛いでいた本革のソファから腰を上げる。

 俺より少し背が低いものの体格のいい六十代の父。白髪が増えて昔よりやわらかい印象にはなったが、仕事に対しては一切の妥協を許さない現役の千石グループ総帥である。

 ショートヘアから覗く耳に大ぶりのピアスをつけ、スカーフの柄のように派手なワンピースを纏った母は昔から専業主婦。

 とはいえ、習い事や経営者夫人同士の会合など常に予定はいっぱいで、家にいることはあまりない人だ。

< 109 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop