院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「いらっしゃい、杏さん」
「今日はご足労いただいてごめんなさいね。会えてうれしいわ」

 両親から笑顔で迎えられ、杏は両手を突っ張るほど伸ばして紙袋から出した和菓子の箱を差し出す。

「小田切杏と申します! ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いいたします……!」
「まぁ、ありがとうございます。こちらこそどうぞよろしくね」

 手土産を受け取った母はにこにこと杏に声をかける。父も穏やかな顔で杏を見た。

「杏さんのお父上にはうちの長男が昔世話になったんです。柊二から聞いていますか?」
「はい。父がお兄様のオペを担当したと」
「小田切先生には、感謝してもしきれない。いずれまた、長男も交えてご挨拶をさせてほしいと伝えてください」
「承知しました!」

 両親の好意的な態度に杏も少しホッとしたようである。それから四人でソファに腰かけると、使用人がワゴンで紅茶とマカロンを運んできた。

「病院での柊二はどう? ちゃんとやってるかしら」
「はい。とてもよくしていただいています。先生のオペを横で見ていると、その速さと正確さに毎回驚いてしまって、息をするのを忘れてしまうくらいなんです」
「これ、彼女は大袈裟に言ってるわけじゃないんだ。本当に息を止めてジッとモニターを見ているから、たまに声をかけないと倒れるんじゃないかと心配になる」
「はっはっはっ。熱心な証拠じゃないか」

 紅茶を飲みながら、軽い世間話で場が和んでいく。

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