院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「ああ、なに?」

 父の態度に違和感を覚えつつも、臆せず聞き返す。両親はともに杏を気に入っていると確信していたから、まさか悪い話ではないと思ったのだ。

「お前は千石グループと直接かかわりのある人間ではないが、息子の結婚相手に清廉潔白な女性を求めるのはあたり前のこと。だから、彼女について少し調べさせてもらった」
「えっ……?」

 杏のことを調べた……? それは、探偵や興信所のようなものを使ったということだろうか。

 俺にひと言の相談もなく彼女の周囲を嗅ぎまわられたと思うと、沸々と怒りがわいた。

「彼女のプライベートを探るような真似をしたのか? いくら親でもそれは踏み込みすぎだろう。第一、彼女はあの小田切院長の娘だ。やましいことなんてあるはずないだろ」
「お前が怒る気持ちもわかるが、一旦落ち着いてこれを見てくれ。彼女はお前を裏切って、他の男と出歩いているようだ」
「裏切る……? 杏に限ってそんなことあり得ない」

 まともに取り合わない俺にため息をついた父が、テーブルの上にパサッと書類を放る。

【小田切杏に関する調査報告書】と書かれた表紙をめくると、隠し撮りしたと思われる杏の写真やプロフィールが載っており、ますます気分が悪くなった。

 しかし、父のくだらない妄言を否定するためには、すべて目を通す必要がある。

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