院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 医局でこの格好をした杏と遭遇した時も、彼女らしくないセリフに翻弄され、俺はまんまとその魅力の虜になった。

 杏は他の男のことも、同じ魔法で誘惑しているというのか?

 そんなばかげた思考に脳内が占領されそうになり、思わず頭を振る。

 父は同情するような目で俺を見た。

「お前もいい大人だし、最終的にどうするかの判断は任せる。しかし、もしも彼女に疑わしい言動があるなら、結婚する前にきちんと話し合いなさい。私が言いたいのはそれだけだ」
「この写真、母さんには……?」
「感情的になりそうだから見せていない。このことを知っているのは私とお前だけだ」

 つまり、杏にアルバムを見せようとここから連れ出したのは、偶然だったのか。

 今頃杏が母に詰め寄られているのではと不安になったが、その心配はないらしい。

「……そうか。ありがとう。この書類、持って行っても構わないか?」
「ああ、好きにしなさい」

 父の胸中も複雑だとは思うが、大事になる前にこの報告書を俺だけに見せたという冷静な判断に感謝する。

 しかし、写真を見つめれば見つめるほど、俺自身が冷静でいられなくなっていく。

 ……杏。この男は誰なんだ?

 もしかして、本当は好きな相手がいるのに、俺があんな交換条件を持ち掛けたから断り切れず、嫌々一緒にいてくれているのか……?

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