院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「柊二さんって、お兄さんとそっくりなんですね。幼稚園の時の写真、すっごくかわいかったです。今と違って目がくりくりしてて」
帰りのタクシーの中での杏は、行きの車内で緊張していたのが嘘のようにはしゃいでいた。俺の実家は彼女が想像していたほど窮屈な場所ではなかったのだろう。
母ともすっかり仲良くなったようで、本当なら一緒に喜んでやりたいのに、なにか言おうと口を開きかけても結局は重苦しいため息しか出てこない。
両親からは夕食を一緒に食べようと誘われたが、明日仕事で朝早いからと断った。
なにも知らない母はともかく、父の前で杏とどう接したらいいのかわからなかった。
「……柊二さん、お疲れですか?」
「そうだな。……少し、疲れてるのかもしれない」
杏の目を見ないで答え、シートに深くもたれて目を閉じる。
彼女もそれ以上はなにも聞かずに口をつぐみ、マンションに着くまで車内は気まずい沈黙に包まれていた。
自宅に戻ると、俺は杏を避けるようにして風呂場に逃げ、シャワーを浴びた。
こんなにも胸が苦しいのは、彼女を疑っている証拠なのだろうか。