院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「硬くてまっすぐですね、柊二さんの髪は」
「……そうか?」
「はい。乾かし方を間違えたらハリネズミみたいになっちゃいそうです」
杏の無邪気な発言に、張り詰めていた心がふっと緩む。髪を梳く華奢な指の動きがくすぐったく、飼い主の手に甘える大型犬みたいな気持ちになってくる。
「……気持ちいい」
「よかった。さっきより顔色もよくなりましたね」
疑心暗鬼に襲われていたのが嘘のように、平和な時間。
こんな時が永遠に続けばいいのに……そう思っているのが俺だけだとしたら、虚しくてたまらない。
杏の気持ちが知りたい。本心では、俺をどう思っているのか。
「よしっ。ちょっと待ってくださいね」
ドライヤーのスイッチを切った杏が、ぱたぱたとキッチンに駆けていく。一分ほどレンジでなにか温めたと思ったら、湯気の立つマグカップを手に戻ってきた。
ふわりと鼻先をかすめたのは、甘いシナモンの香りだ。
「はちみつとシナモン入りのホットミルクです。私の場合ですけど、仕事でも勉強でも疲れた時はこれが一番効くんです。気が休まってよく眠れますよ」
「これを……俺のために?」