一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
専攻医小田切杏の告白

 柊二さんを怒らせてしまった。

 彼の態度がいつもと違うことには気づいていたのに、ちゃんと話し合えないまま柊二さんは病院へ行ってしまい、昨晩はよく眠れなかった。

 私がいつまでもウジウジしているせいだ。柊二さんはいつだって優しかったのに、私ときたら……不安の数ばかり数えて、柊二さんの気持ちに無頓着だった。

 後悔ばかり残っていて気だるい体をベッドから起こし、出勤準備をする。

 昨夜は食事をしそびれてしまったけれど、空腹は感じなかった。

 エネルギー補給のため牛乳を一杯だけ飲むと、髪やメイクを整えるため、洗面所へ移動する。鏡に映った自分の顔にはまったく覇気がなかった。

 病院に行ったら、どんな顔をして彼に会えばいいのだろう。

 彼は落ち着いたらこれからのことを話そうと言っていた。

 もうお互いの両親への挨拶も済ませているのに、改めてそんなことを言う理由なんてひとつしかない。

 結婚の話をなかったことにしようと、おそらく彼はそう思っているのだ。一緒に住んでいるだけで籍も入れていない今なら、どうにだってなるから。

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