一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 柊二さんの妻になるなんて、元々私には荷が重かったのだから気楽になるじゃない。

 父と母と、それからたまにお節介を焼くけれど私の趣味を理解してくれる凪のいる実家に戻って、仕事を頑張ったご褒美にたまにアニメのイベントへ行く。

 そんな今まで通りの生活に戻れば、私にとって居心地がいいはずでしょ?

 ポジティブな要素を探して気持ちを立て直そうとするけれど、胸に残ったしこりは消えてくれない。

 こんなことなら、昨日柊二さんに求められた時、勇気を出して応じていればよかった……。

 やめてと言ったのは、怖かったり不快だったりしたわけじゃない。ただ、自分に自信がなかっただけ。

 ……彼に、嫌われたくなかっただけなの。

 そこまで心の中で呟きふと意識を現実に戻すと、鏡の中の自分は涙を流していた。

 慌てて指先で拭うも、一度溢れた涙は次々に頬を伝ってこぼれていく。

 情けない顔でしゃくりあげる自分の顔を見て、私はようやく心を占領している大きな想いに気がついた。

 私……柊二さんのことが好きなんだ。いつの間に、大好きになっていたんだ。

「でも、遅いよ……」

 柊二さんは、きっと昨夜の一件で私を見限った。

 今さら好きだと言われたって、彼はきっともう私のことなんて必要としていない。

 どうしよう。どうしたらいい?

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