一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
その日は朝の回診の後、午前九時から柊二さんのオペに立ち会った。
業務開始までには頭を冷やしておくと言った通り、柊二さんの様子に変わったところはない。
私もプライベートのことで患者さんに迷惑をかけるなんてあってはならないことだと気を引き締め直し、雑念を頭から追い出して仕事に集中した。
立ち会ったのは脳腫瘍を摘出する開頭手術で、全身麻酔下で行うこともあるものの、今回は患者の意識がある状態で行われる覚醒下手術だった。
腫瘍は最大限取り除きたいが脳機能の温存も大切なことである。今回の患者はまだ大学生の女性で、将来は理学療法士になりたいそう。
だから、満足に勉強ができなくなってしまうような後遺症が残るのは絶対に避けたいと言っていた。
その確認のために、看護師が絵カードを見せながら患者に質問する。
「この絵がなんだかわかりますか?」
「……バナナ」
「これは?」
「りんご」
どうやら問題はないようである。看護師は柊二さんとアイコンタクトを取り、彼は注意深く腫瘍の剥離を続ける。
私は傍らで止血を担当しながら、柊二さんが少しの迷いもなく器具を動かして腫瘍を取り除くのを、ジッと注視する。