一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

「長丁場だったから、お互い腹が減っていたよな」
「はい。私、朝も牛乳しか飲んでなくて」
「寝坊したのか?」
「いえ……あまり食欲がなくて」

 正直にそう口にすると、柊二さんがすまなそうに眉を下げる。

「もしかしなくても、俺のせいだよな……。昨夜はどうかしてたんだ。本当に悪かった」
「いえ、しゅ……千石先生のせいじゃありません。私がハッキリしないから……」

 病院でうっかり『柊二さん』と呼びそうになり、慌てて訂正する。

 私たちは束の間の休憩でも、医局にいる他の先生方は仕事中。プライベートの空気を持ち込むわけにはいかない。

「杏……先生。今日仕事が終わったら――」

 柊二さんも少し周囲を気にしたように、私にそう呼びかけた時だった。

 母のデスクの電話が鳴って、私たちは自然とそちらに注目する。

 電話に応対した母の表情には差し迫ったものがあり、断片的に聞こえてくる会話から、緊急手術の気配を察する。

 現在手が空いている柊二さんが呼ばれるかもと覚悟した。

< 127 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop