一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

「千石先生、杏。救急から応援要請。SAH疑いの二十代男性。今、CTの結果待ち」

 SAHとは、くも膜下出血を英語にした時の略語である。その症状は一刻を争う。すぐに向かわなければ。

「行くぞ」
「はいっ」

 私たちは白衣をひるがえし、急いで医局を出る。

 私たちが救急科に着いた時にはCTの結果が出ており、即座にSAHの確定診断をくだした柊二さんが、追加の造影検査を依頼する。

 検査室と隣り合った操作室で技師にてきぱきと指示を出す彼の傍らで、私は検査結果に記された名前を見て小さく体が震えた。

【ミツモトリュウセイ 二十六歳 男】

 うそ……でしょ? まさか、搬送された患者は竜星くん……?

「どうした? 顔色が悪いぞ。まさか知り合いか?」
「……っ、はい」

 どうして竜星くんが? 凪は知っているの?

 指先から血の気が引いて、軽く目眩がした。

「だったら無理に立ち会わなくていい。医局に戻ってろ」
「いえ、大丈夫です! 私が執刀する訳じゃなくても……彼を助けたい」

 姉の大事な人が命の危険に陥っているのに、目を背けて逃げるなんてできない。

 父だって昔、愛する人の脳を開き、常に死と隣り合わせのオペに打ち勝って母を救った。

 私が尊敬する脳外科医は、みんな強く勇気のある人たちだ。私もそうなりたいって、ずっと思ってきたから。

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