一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

「もしかして、彼はきみの――」

 柊二さんが言いかけたその時、操作室の扉が開いて竜星くんの検査を担当していた技師が戻ってくる。

 技師がパソコンを操作して映し出された画像には、教科書や資料以外で初めて見る、血管の塊があった。柊二さんが目の色を変える。

「これは、ナイダス……」
「嘘……」

 この塊は、AVMとよばれる先天性の血管奇形だ。柊二さんのお兄さんが患い、そのオペを父が担当したというあの病と同じ。

 ナイダスというのはラテン語で「巣」を意味する。複雑に絡み合った動脈と静脈は、そう言われてみると不吉なものの棲み処のよう。

 このナイダスが破れてしまうと、脳出血やくも膜下出血の原因になる。

 無症状の場合はその存在にすら気づかない、静かな爆弾。運よく脳ドッグなどで見つかったら、出血を防ぐためになんらかの治療を提案する。

 しかし、二十代でなんの自覚症状もないのに脳ドッグを受けようという人なんてほとんどいないのが現実だ。

 竜星くんも今日まで発見されることなく、なにかのきっかけでナイダスが破裂してしまったのだろう。

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