一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

「開頭とカテーテルを同時にやらなければ間に合わない。オペ室の手配は?」
「三番を確保してあるそうです」

 技師の答えを聞き、柊二さんは小さく「よし」と呟く。

「そこなら造影装置もあるな。杏、愛花先生に応援を頼んでくれ」
「わかりました。すぐに」
「それから、きみはやっぱり立ち会わなくていい。愛花先生の仕事を引き継げ」
「えっ? ですが……!」
「聞こえなかったのか? 足手まといだから来るなと言っている」

 ぴしゃりと告げた柊二さんは、そのまま足早に私の前を去る。

 足手まとい……。ショックでその場に凍り付いたのは一瞬で、私はすぐに院内用のスマホで母にコールする。

「愛花先生、千石先生からオペの応援要請です」

 くも膜下出血の原因がAVMだったこと、そして患者の名前を告げると、さすがの母も驚いたようだった。

 しかし、即座に頭を切り替えて自分の担当患者の回診を私に指示すると、自分は千石先生のいるオペ室に向かうと告げ電話は切れる。

 竜星くんのことは、ふたりに任せるしかない。私はまだ専攻医になって半年ぽっちの頼りない医者で、AVMの症例に当たったのも初めて。

 役に立てることなどひとつもないのだ。

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