一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 マスクをして、プライベートでは下ろしている髪をまとめているから、凪との違いがわかりにくいせいもあるのだろう。

〝私は杏だよ〟と告げようとしたその時、布団の中から伸びてきた竜星くんの手が、私の手首を掴んだ。

「凪……おれ……こわ、かった……」

 彼の目の端を、ひと筋の涙が伝って枕に沁み込む。縋るように私を掴んだ手は、微かに震えていた。

「竜星くん……」

 そうだよね。怖かったに決まっている。

 くも膜下出血の頭痛は壮絶なものと聞くし、手術の間中眠らされ、気が付いたら病院にいて手術をされていたなんて、簡単に受け入れられないことだろう。

 私は彼の手を取ってそっと握り返し、ベッドの脇に屈んで目を合わせた。

「もう、会えなかったらどうしようって」
「うん」
「好きだって、もっとたくさん……言っておくんだったって」

 一途に凪を思う竜星くんの気持ちに、胸が熱くなる。

 瞳を濡らしたままの彼に私までもらい泣きしてしまい、鼻の奥がツンとした。

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