一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
脳外の医局にすでに母の姿はなく、夜勤の医師も席を外していたために私と柊二さんのふたりきりだった。
柊二さんは自分のデスクに近づくや否や、足元に置かれていたビジネスバッグを開いて、中から書類の束を取り出す。
それを私に差し出しながら、自嘲気味に話しだした。
「家のことなんて関係ないと大見得を切っておきながらこんなものが存在するなんて、気を悪くするかもしれないけど……」
何枚か重なった書類の内、一番上には【小田切杏に関する調査報告書】とあった。
仰々しいタイトルにドキッとして、柊二さんを見つめる。
「これはいったい?」
「千石家に嫁ぐことになるきみについて、父がしかるべき機関に調査を依頼したらしい。俺は家業を継ぐわけじゃないから結婚相手についても干渉されることはないと思い込んでいたが、そうではなかったようだ。きみのプライバシーを侵害して申し訳ない」
つまり、知らない間に身元を調査されていたということ……!?
柊二さんのご両親は気さくそうな人たちに見えたけれど、旧財閥家のルールやしがらみというのは、やはり根強く残っていたのだ。
とはいえ、別に調べられて困ることはないはずだけれど……いや、もしかしたら。