院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「変な話をして悪かった。忘れてくれ」
「いえ……お役に立てなくてすみません」
「気にするな。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい……」

 千石先生の広い背中が夜の闇に紛れて見えなくなると、はぁっと大きな息をつく。

 とりあえず、魔法少女の正体が私だとバレなくてよかった……。

 よろめきながらマンションのエレベーターの乗り込み、自宅のある十五階を目指した。


「ただいまー……」
「おかえり~杏!」

 夜遅いのであまり物音を立てないように帰宅したが、耳のいい姉の(なぎ)が自室から出てきてガバッと私に抱きついた。

 凪のふわふわパーマの長い髪から、キャンディのように甘い香りがする。ルームウエアはフリフリレースのキャミソールとショートパンツで、お人形さんみたい、という比喩は凪のためにあるといつも思う。

 メイクもファッションもシンプルなものを好む私とは対照的な姉なのだ。

「暑苦しいよ、凪……」
「ねえ、そんなことより男の人と帰って来たでしょ! もしかして、とうとう彼氏できた!?」

 パッと体を離し、キラキラした目で顔を覗き込んでくる凪。

 ここは十五階だというのに、ベランダから私を判別したというのだろうか。

 耳だけでなく視力まで良い凪に感服しつつも、見当違いな予想にはハタ迷惑なものを感じる。

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