一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
こんな場所でダメです……そう言いたいのに、意思に反して私の手は柊二さんの白衣にしがみついていた。
いつもは静かな早朝の医局で、私たちの吐息が重なる。
やめなくちゃと思うのに、視線が絡むと自然とまたキスをしてしまう。
そんな時間をどれくらい過ごした頃だろう。医局の入り口で、ガタッと物音がした。
とっさに体を離した私たちは、音のした方に注目する。
扉の枠にもたれて腕組みしているのは、情けない顔をした父だった。
「……杏。お父さんを泣かせたいのか?」
「い、院長」
「お父さん……」
なんと気まずいタイミングだろう。もしかして、今のキス見られてた……?
思わず目を見合わせた柊二さんも、院長の登場にかなり緊張した様子だ。
「あのふたりのことだからどうせ朝まで仕事してるかもって、愛花に言われて様子を見に来たらこれだ。同じ医局に愛しの相手がいたら盛り上がっちゃう気持ちは俺にもよくわかるよ。よくわかるけど……」
ゆったり医局内に歩みを進めてきた父が、話しながら柊二さんの周りをウロウロする。
父は完全に恐縮して身を縮めている柊二さんの肩に肘を置き、彼を掬い上げるような目で睨んだ。