一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
指導医千石柊二の熱情
 誤解が解け、晴れて相思相愛となった俺と杏だが、光本竜星の容態が安定するまでは手放しで喜べなかった。

 とくに杏にとっては、双子の姉の恋人が命の危機に瀕しているのだ。そんな中、自分だけ俺との結婚に向けて積極的に動き出すというのは彼女の性格的にも許せないのだろう。

 その気持ちは俺にも理解できるので、焦らず光本の回復を待った。

 最初の手術により再出血のリスクは限りなく低くなったが、重篤な合併症が起きる可能性はまだはある。

 それが起こりやすいとされる最初の七日間は、お互いあまり家に帰らずに彼の病状に注意を払った。

 手術から八日目に久々に家でふたりになると、杏もさすがに疲れた表情を見せた。

 リビングに入るなり、床に仕事用のバッグを下ろし、ソファに深く腰掛ける。そのまま横に倒れると、深いため息をついた。

「とりあえず、七日目の山場は越えましたね。あと二週間、何事もなければだいぶ安心できるかな……」

 ジャケットを脱いだ俺も、一緒に休憩しようと彼女の頭側に腰を下ろす。

 顔にかかっていた杏の髪を耳にかけ、そのままゆっくりと撫でた。

「そうだな。杏もずっと気を張っていて疲れただろう。家にいる時くらい、自分の体を休めることを第一に考えろ。頭、ここに乗せていいぞ」

 俺は自分の太腿をポンポンと叩く。テーブルの方を向いていた彼女が顔を上げ、頬を赤く染める。

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