院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 なにか言いたそうだったように見えたが、杏は結局なにも告げずに真っ赤な顔でぱたぱたとリビングを出て行く。

 彼女のことだから、ベッドの上でのことに素朴な疑問がたくさんあって、けれども俺に直接尋ねるのは恥ずかしくてできない。そんなところだろう。

 そんなに心配しなくても、どんな疑問にも一つひとつ丁寧に答えてやるつもりだし、極力優しく抱いて、彼女をゆっくりと成熟した女性へと導いてやりたいと思っている。

 杏はいったいどんな風に体を熱くして、俺を求めてくれるだろう。

 軽く想像しただけでもたまらなく本能が昂り、早く杏を食べたいという飢餓感に襲われた。


 シャワーを済ませて寝室に戻ると、杏はベッドの行儀よく正座していた。
 
 ピンと伸びた背筋から明らかに緊張しているのが伝わり、思わずフッと笑ってしまう。

 どうせ脱ぐからと下着とスラックスだけ身に着けた俺がギシッとベッドに腰かけると、杏はますます身を硬くして、シーツを見つめたまま動かない。

 正座した脚の上でギュッと握られたこぶしに、俺はそっと手のひらを載せる。

「杏。……俺の方見て」

 そっと声をかけると、忙しく瞬きを繰り返しながら、杏がぎこちなく俺を見る。

 彼女をリラックスさせる方法をいくつも頭に思い浮かべながら、まずは啄むように軽く口づけした。

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