院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「違うよ。指導医の先生が送ってくれたの。お父さんが頼んだみたいで」
「なぁんだ。つまんないの……せっかくダブルデートの夢が叶うと思ったのに」
「悪いけどその夢はたぶん叶わないよ。いいじゃない、凪は凪で竜星くんとうまくいってるんだから」
凪には見ているこっちが照れるくらいに仲のいい光本竜星という恋人がいて、休日はもっぱらふたりでデートしている。
彼らは同じ『コバルト製薬』という製薬会社勤務で、部署は違うようだが休みを合わせるのは難しくないらしい。
私たちと同い年で見た目は爽やかな竜星くんだけれど、凪を前にすると幼児に退行したかのごとく甘えん坊になる。
そして、凪はそんな彼がかわいくて仕方がないという感じで、甘やかしっぱなし。
一度喫茶店で彼を紹介されたときにその現場を目の当たりにして、ひどい胸やけに襲われたのを覚えている。
だから、たとえ私に恋人ができたとしても、彼らとダブルデートするのは全力で遠慮させていただく。
「今、竜星とケンカ中なの。だから、杏が間に入ってくれないかなぁと思って」
「ケンカ? 珍しいね」
凪と一緒にリビングダイニングに移動し、キッチンで手を洗いながら尋ねる。
ダイニングの椅子に腰を下ろした凪は、口を尖らせながら頬杖を突いた。