院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「はい、あーん」
「あー……ん、美味しいよ凪~」
「よかった~。私も竜星がこうして普通に食べられる姿見れるだけでうれしい♪」
十一月になったばかりの午後。脳神経外科の一般病棟に移った光本竜星の回診に行くと、病室を開けただけで男女の甘ったるい声が聞こえてきた。
どうやら、杏の姉である凪さんがまた見舞いに来ているらしい。
彼がくも膜下出血の発作を起こし倒れたあの日から三週間が経過していた。
最も危険な時期は過ぎ、彼の場合目立った後遺症は現れていないが、最低でもあと二週間ほどは入院してもらって経過観察を続けたい。
日常生活に戻るためのリハビリテーションも、間もなく開始する予定だ。
彼のベッドは大部屋の一番奥にあるため、看護師と一緒にそこへ向かい彼のベッドを覗き込む。
「光本さん、お加減はいかがでしょう――」
彼はとても幸せそうな顔で、凪さんが手にしたスプーンでプリンを食べさせてもらっていた。それは別にいいのだが、目に入った凪さんの姿を見てギョッとする。
「あっ。千石先生。こんにちは」
「こ、こんにちは」
少したじろぎながらもとりあえず挨拶する。
今日の凪さんは、ウィッグこそかぶっていないものの、杏の十八番である魔法少女オトメの格好で、ベッド脇の椅子に腰かけていた。
改めて見ると、杏と似ているのは背格好だけで、顔のつくりはあまり似ていない。写真とはいえ見間違えた過去の自分が悔しい。