院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「凪~、もうひと口」
「はいはい。あーん」
俺との会話に飽きたのか、凪さんと竜星くんはまたふたりの世界に入ろうとしており、俺はゴホンと咳払いした。
「プリンは中断してください。血圧が測れません」
「はーい」
「んもう、竜星のせいで怒られちゃったでしょ!」
相変わらずの調子に呆れそうになるが、彼らからその幸せを奪うことにならなくて本当によかったと思う。
脳神経外科で扱う疾患には命にかかわるもの、またその後の人生を変えてしまうような重大な症状があるものが多い。
だから俺たちは常に患者に取って最善の治療を考え続け、またそれを実現する技術を身につけなければならないのだ。
緊張感のないふたりを眺めながらも内心ではごく真面目にそんなことを考え、俺は脳外科医としての覚悟を新たにする。
回診を終えて廊下に出ると、今日は別の先生と行動を共にしていた杏と鉢合わせした。
「千石先生、竜星くん、順調にリハビリはじめられそうですか?」
「ああ。症状も落ち着いているし、本人も前向きだ。凪さんの支えもあるしな」
「よかった……」
「そういえば、今夜の約束は大丈夫そうか?」