院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「はい。今日は早めに帰れそうです」
今日は仕事の後、兄とその婚約者と会う約束をしている。
まったくの偶然なのだが、兄も俺たちと同じようなタイミングで、かねてから交際していた女性と結婚を決めたらしい。
杏の話をしたらぜひ会いたいと言うので、食事をしながらお互いに婚約者を紹介しようという流れになった。
「よし。じゃ、またあとでな」
腕時計を確認し、残りの回診を急ぐ。
それからいつも通りに忙しい業務を終えると、杏と一緒に病院を出た。
兄と食事の約束したのは、高級ホテル内の中国料理レストラン。
杏は少し緊張していたものの、中国料理ならそこまでテーブルマナーを気にしなくていいからと、純粋に兄とその婚約者に会うのを楽しみにしてくれていた。
病院から乗ってきたタクシーを降りてレストランへ向かうと、兄たちの方が先到着しており、丸テーブルのある個室で俺たちふたりを出迎えてくれた。
「お待たせしてすみません……!」
まずは杏がそう言って、勢い良く頭を下げる。そして顔を上げた瞬間、兄とその隣にいる女性を見て杏がなぜか無言でぱちぱちと目を瞬かせた。
……なにを驚いているんだ?