院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「久しぶりだな柊二。こちら、鳥山李子さん」
「千石柊二です。初めまし、て――」
兄に紹介された李子さんという女性は、俺と杏の姿に激しく動揺した様子で、口元を手のひらで覆った。
そして俺もまた、李子さんや杏と同じように目を見開いて戸惑いを覚える。
彼女とは、初めまして……ではない気がする。しかし、いったいどこで会ったのか思い出せない。確かに見覚えはあるのだが……。
「三人ともどうしたんだ? 杏さん、初めまして。柊二の兄の慶一です」
兄が挨拶すると、杏はようやくハッと我に返る。
「初めまして。あの、いきなりこんなこと聞いて失礼なのですが、慶一さん、リコさんのリって……漢字でどう書きますか?」
「漢字? 木の下に子どもの子って書く字だ。確か、果物のスモモって意味だったかな」
そうか。スモモ……スモモ氏……。名古屋の神社で杏と一緒にコスプレをしていた女性だ。
しかし、結婚相手の家はアニメというものに理解がなく、泣く泣くコスプレの趣味を諦めて嫁ぐのだと……杏が話していた。
ということは、アニメに無理解な家というのは……。
「やっぱり……スモモ氏」
杏がこらえきれなくなったように、彼女を呼んだ。李子さんもまた、複雑そうに杏を見つめて呟く。