院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「アンズ氏……まさか、こんなところで会うなんて」

 ふたりはしばらく見つめ合った後、まるで示し合わせたように駆け出してガバッとお互いに抱きつく。

「話したいことがたくさんあるよスモモ氏~!」
「私もだよアンズ氏……!」

 ただ事ではないふたりの盛り上がり方に驚いた様子の兄が、遠慮がちに俺の方へ近づいてきた。

「柊二、あのふたりって、なんであんなに仲がいいんだ?」
「……魔法少女オトメって知ってるか?」
「あ、ああ。李子がよく見てるアニメだ。コスプレ衣装を持っているくらい夢中で」
「うちの杏もだ。その趣味を通じて親しくなったらしい」
「そういうことか、なるほどな」

 兄が納得したように頷く。俺はふと、李子さんも父に調査されたのかと気になった。

 俺が兄にその話を持ち掛ける前に、李子さんが杏に告げた。

「あのね、結局慶一さんの家に勝手に身元を調査されて、コスプレのことバレちゃったんだ」
「……そういえば、嫁ぎ先が千石家ならそうか。私も調査されたよ。ちょっと間違った調査結果だったけど」

 杏がチラッと俺を見て笑った。それについてはまったく言い訳の仕様もないので、俺は無言でぱちんと両手を合わせた。

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