院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
「今年の春、会社の新人歓迎会のために杏のコスプレ衣装借りたでしょ? 竜星ったらあれが気に入っちゃったらしく、最近私にもっとエッチな格好をさせようとしてくるの。それってなんか、欲望のためだけに利用されてる感じがして嫌じゃない? だから断ったんだけど、それ以来変な空気になっちゃって……」
ドキッとした。凪と竜星くんのケンカの内容はともかく、コスプレの話をされたのがタイムリーすぎて……。
マンションの前で寂しげに笑っていた千石先生の顔が、ふと頭に浮かんだ。
「ねえ、凪はどう思う?」
「えっ? どうって……」
「大好きな彼氏の頼みだったら、応じてあげるべき?」
「わ、わかんないよ……。私には彼氏なんていないし」
凪は相談相手を間違えている。
脳外科医になるため日々仕事と勉強に明け暮れている私に恋愛経験はないし、凪だってそのことはよく知っているはずなのに。
話を適当にはぐらかした私は、冷蔵庫の方へ体の向きを変える。
我が家の冷凍庫には温めるだけでバランスの取れた定食が出来上がる便利な冷凍食品が常備してあるので、それを出してレンジに入れた。
温めを開始したレンジの音に紛れ、凪がため息をつく。