院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

「状況? そうだな、今はフィリピンの上空辺りじゃないか?」

 ラグジュアリーなソファに長い足を組んで座り、背後の丸窓から外を覗いた柊二さんがのんきな調子で言う。

 彼もまた新郎の衣装、黒に近いミッドナイトブルーのタキシードを纏っており、いつもの白衣姿とは違う印象にドキドキする。

 艶のあるワックスでオールバックにまとめられたヘアスタイルも、フォーマルで大人っぽい魅力にあふれていた。

「あの、現在地を聞いたわけでは……」
「ほら、立っていないでこっちに座って。今日のきみは俺だけのものなんだから」

 柊二さんが真っ白なグローブをつけた私の手を引いて、自分の隣に座らせる。

 今日の挙式に合わせてナチュラルで動きやすいエンパイアラインのドレスを選んだのは彼だったので、式の前にもこうして自由な時間をたっぷり過ごすためだったのかも、と今さら気がついた。

 ただし、ドレスがシンプルな代わりに、千石家が用意したらしいネックレスやイヤリングには、とんでもなく豪華なジュエリーが使われている。

「キスしていいか?」

 ドレスからむき出しの肩を柊二さんの手が包み込み、彼と密着するように引き寄せられる。

 ドキッとして彼の唇についつい目が行ってしまうが、これからの予定を思うとためらいがある。

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