一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 一カ月前のあの日、私は夜行バスで翌日のアニメイベントに出かける予定だった。

 開催地はアクセスの悪い場所にあり、朝六時にバスで到着した場所からまた電車に一時間揺られるというハードスケジュール。

 見たいステージも欲しいグッズも色々とあったために現地で着替えている暇はなく、仕事の後で家に寄り、衣装に着替えてからバスに乗るつもりだった。

 コスプレした状態で公共の乗り物に乗るのはマナー違反に当たるので、しっかりと衣装を隠す上着を着てウィッグは帽子で隠そうと計画した。

 が、そうやすやすと時間通りに仕事が終わらないのが脳神経外科という職場だ。

 千石先生と一緒に緊急オペに対応したり、術後に合併症を起こした患者の対応に追われたりしているうちに、気づけばバスの時間が迫っていた。

 病院から直接行けばそれほど焦らなくていいが、一度家に帰ったら時間をロスしてしまう。

 念のために衣装は持参していたし、夜の医局には私と千石先生しかいない。さらに、彼は私に『お疲れ』と言ったきり、ソファで仮眠を取り始めた。

 これはチャンスなのでは……?

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