一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

 あとは、コスプレをする際にいつも持ち歩いているマスクとサングラスを着け、大きめの帽子をかぶってしまえばこの派手な格好も隠せる。

 これでとりあえず準備は万端かな……。

 メイクが終わった時点で壁の時計を見ると、バスの時間まで少し余裕があった。

 鏡に映った自分は、ほぼ百パーセント魔法少女オトメになりきっていた。

 この格好をすると、内面までオトメのように強くなれた気がするから不思議だ。

テンションが上がって調子に乗った私は、バッグから小道具の魔法ステッキまで取り出し、オトメの登場シーンを再現してみる。

『ときめくココロが世界を救う。魔法少女オトメ参上!』

 小さな声で呟き、その場でくるくる回る。スカートの裾を軽く持ち上げながら反対の手でステッキを振って、敵の注目を集めたら微笑みながらウィンクだ。

『あなたの冷めたハート、オトメが熱くしちゃうぞ』

 ステッキをびしっと突きつけ、決め台詞。

 ああ、やっぱりオトメになりきるのって最高!

 内心恍惚に浸りつつも、これ以上遊んでいたらバスの時間に遅れてしまうと、慌ててデスク上のメイク道具を片付けていたその時だった。


『……誰だ?』


 不吉な声がして、背筋が凍り付く。

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