一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
今の……明らかに千石先生の声……。
さびついたロボットのようにぐぎぎ、と首を動かして声の主を見る。
さっきまで熟睡していたはずの彼が軽く上半身を起こし、まだ寝ぼけているかのように瞬きしながらこちらを見ていた。
ど、ど、どうしよう。
『ピンクの髪……? なんだこれは、夢か?』
どうやら千石先生は意識がはっきりしていないようだ。
寝起きの彼に私は小田切杏だと言っても理解してもらえないだろうし、一から説明している時間もない。というか、私にこんな趣味があると同僚に知られたら、きっと遅かれ早かれ両親にも情報が伝わってしまう。それは絶対に阻止したい。
幸い千石先生は寝ぼけているみたいだし、きっとごまかすのが得策だ……。
極限状態の私が選んだ道は、オトメになりきったまま秘密を守ることだった。
千石先生のいるソファに踊るような足取りで近づき、彼の腰の辺りをまたぐようにしてソファに乗る。
それから、彼に向って魔法のステッキを振った。
気分は魔法使い……というより、必死な催眠術師である。