一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
『夢の中でオトメに会えるなんて、あなたはラッキー☆ 目覚めた時、きっとハートが熱くなっているよ♪ でも、オトメに会ったことは誰にも内緒。や・く・そ・く・ね♡』
そう言って、人差し指をちょん、と千石先生の唇に当てる。
彼はぽかんと呆けた顔をしていたが、やがて小さく頷いた。
よし、これでなんとかなった……はず。
彼に魔法をかけ終わると、ソファから下りてまた幻想的な踊りを交えつつ、自分のデスクの方へ戻る。
そしてさりげなくバッグを回収し、軽い足取りで医局を後にした。
オトメから小田切杏に戻った私は、誰もいない廊下でバッグを抱えながら、バクバクと暴れる心臓の音に耐える。
私だって気づかれなかったよね? 不審人物として通報とかされないよね?
次に千石先生と顔を合わせる時、どうしたら……?
冷や汗まみれで夜行バスに乗り込み、その晩は一睡もできなかった。
それでもなんとか翌日のイベントを楽しみ、昨晩のことはなかったことにしようと自分の中で記憶を抹消。勤務日になると千石先生ともいつも通りに接した。
彼の方からもその話題を出すことはなく一カ月が過ぎたのでで、夢として処理してくれたのだとばかり思っていた。