一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

『夢の中でオトメに会えるなんて、あなたはラッキー☆ 目覚めた時、きっとハートが熱くなっているよ♪ でも、オトメに会ったことは誰にも内緒。や・く・そ・く・ね♡』

 そう言って、人差し指をちょん、と千石先生の唇に当てる。

 彼はぽかんと呆けた顔をしていたが、やがて小さく頷いた。

 よし、これでなんとかなった……はず。

 彼に魔法をかけ終わると、ソファから下りてまた幻想的な踊りを交えつつ、自分のデスクの方へ戻る。

 そしてさりげなくバッグを回収し、軽い足取りで医局を後にした。

 オトメから小田切杏に戻った私は、誰もいない廊下でバッグを抱えながら、バクバクと暴れる心臓の音に耐える。

 私だって気づかれなかったよね? 不審人物として通報とかされないよね?

 次に千石先生と顔を合わせる時、どうしたら……?

 冷や汗まみれで夜行バスに乗り込み、その晩は一睡もできなかった。

 それでもなんとか翌日のイベントを楽しみ、昨晩のことはなかったことにしようと自分の中で記憶を抹消。勤務日になると千石先生ともいつも通りに接した。

 彼の方からもその話題を出すことはなく一カ月が過ぎたのでで、夢として処理してくれたのだとばかり思っていた。

< 28 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop