院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 そばまで来た彼女は俺の体に乗っかるような体勢で接近してきて、心臓が飛び出しそうになる。

 また、独特なコスチュームを纏った彼女は仕事中には見ることのない太腿や二の腕を惜しげもなく露出していて、見てはいけないものを見てしまったような罪悪感が湧いた。

 直視しないよう軽く視線を外すと、今度は仕事中にもときどき感じていた杏先生の甘い香りが俺の鼻先をくすぐる。

 夢の中なのにおかしな話だが、意識が飛びそうになった。

 が、そんな自分を戒めるように、頭の中の理性的な自分が囁いた。

 杏先生はまだ専攻医一年目。俺とは年だって七つも違う。なにより、この小田切総合病院の院長である伝説の名医小田切純也(じゅんや)先生の愛娘だ。

 彼女の将来を考えたら、指導医としての立場を逸脱して深い関係になるわけにはいかない。

 たとえどんなに魅惑的な格好で迫ってきたとしても……。

 必死で頭の中から煩悩を追い出し、〝やはりこれは夢だ〟としつこいくらい自分に言い聞かせていたその時。

 俺の胸中を知る由もない目の前の魔法少女が、無邪気な微笑みを向けてきた。

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