院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

『夢の中でオトメに会えるなんて、あなたはラッキー☆ 次に目覚めた時、きっとハートが熱くなっているよ♪ でも、オトメに会ったことは誰にも内緒。や・く・そ・く・ね♡』

 彼女が衣装とお揃いのピンク色のステッキを振ると同時に、胸にトスッと矢が刺さった。

 夢を見る機序にはいまだ謎が多いのが事実だが、脳科学的には記憶の整理やストレスの処理、また自分の願望の表れなどと言われている。

 ということは、目の前の彼女は潜在的な俺の願望?

 それとも、指導医として一線を引いた関係を維持しなければならないというストレスの暴発……?

 呆気に取られているうちに彼女は俺の上から退き、また妖精のごとき軽やかさで離れていく。そして杏先生のデスクの荷物を持って、医局を出て行った。

 ……やっぱり〝彼女〟だよな。なぜか自分をオトメと呼んでいたが、俺には杏先生にしか見えなかった。

 これまでも、杏先生に女性としての魅力を感じていたことは否定しない。

 優秀な脳外科医の両親を持ちながら、そのプレッシャーに押しつぶされるでもなく、反発するでもなく、ただまっすぐに自分の道を行く彼女は最初から眩しい存在だった。

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