院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 かと思えば、緊迫したオペの最中に息をすることを忘れるなど天然な一面もあり、彼女が見せる色々な表情に心をきゅっと掴まれる回数もその強さも、日に日に増しているのを感じる。

 しかし、だからといって彼女にあんな格好をさせたいと望んだことは一度もないはずなのだが……心の奥底には自分でも知らない願望が眠っている、ということなのだろうか。

 彼女が医局を去った後もしばらく悶々としていたが、これ以上考えても仕方がないと、再び俺はソファに体を横たえる。

 次に目覚めた時は、『変な夢を見たものだ』と笑いながら話せるはず。

 本当に魔法にかけられた、なんてことはあり得ないのだから……。

 固く目を閉じ、眠気にさらわれるのを待つ。

 しかし、まぶたの裏にはあの魔法少女の姿ばかりが浮かんで、夢の中なのに眠れない、という矛盾した状況にしばらく苦しんだ。


 その日からおよそ一カ月。杏先生の様子はいつもと変わらず、魔法少女に変身する気配もない。

 だが、夢の内容など普段ならすぐに忘れてしまうのに、あの妙にリアルな夢の記憶だけがいつまでも脳裏にこびりついて離れない。

 ……まさかとは思うが、あれは現実だったという可能性はないだろうか。

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