院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~

 小さな疑いではあったが、一度そう思うと気になって仕方がなく、それとなく同僚たちに聞いて回った。ところがあの魔法少女の姿を見た者は俺以外におらず、調査はすぐ暗礁に乗り上げた。

 そこで、俺は杏先生本人に疑問をぶつけることに決める。

 しかし、忙しい日々に追われてなかなかチャンスが訪れないばかりか、本人を前にすると一度決めたはずの覚悟も揺らいだ。

『魔法少女……? 千石先生、そんな趣味が?』

 なんて、杏先生から白い目を向けられたらと思うと躊躇してしまったのだ。

 そうしてもたもたしているうち、偶然杏先生とふたりきりになる機会が巡ってきた。

『あ、千石先生、ちょうどよかった』

 夜勤の若手医師のフォローを終え、自分はそろそろ帰ろうと医局に戻ろうとしていた時だった。

 病院の廊下で呼び止められ、振り向いたら杏先生の父、小田切院長がいた。

 かつて伝説の名医としてその名を馳せた彼は俺にとって神のような存在で、たとえ現役を引退していても、いつまでも憧れの人である。

 だからといって偉ぶることもなく、常にニコニコしていて物腰柔らかい。

 杏先生の愛らしい垂れ目は完全に父親譲りだなと、院長と顔を合わせるたびに思っていた。

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