一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する

『なにかご用でしょうか?』
『先生、もう帰れる?』
『ええ。ちょうど仕事が片付いたところなので』
『だったらうちの杏、送ってやってくれないか? まだ病院にいると思うんだ。俺が一緒に帰ってやれればいいんだけど、今夜は久々に妻孝行する約束でさ。愛花のことレストランで待たせてるんだ』

 妻孝行……。さすがはおしどり夫婦として有名な小田切夫妻である。

 結婚してから二十年以上経った今でも、ふたりは甘い男女の関係を維持しているらしい。

 結婚した当時の愛花先生は今の杏先生と同じ専攻医だったそうだから、どうやってアプローチしたのか気になるところである。

 今度時間のある時にでも聞いてみたいものだ。

『構いませんよ。杏先生、いつもこれくらい帰りが遅いんですか?』
『そうなんだよ。勉強熱心なのはいいんだけど、母親に似て頑張りすぎる子でちょっと心配でね』
『わかりました。責任を持ってお送りします』
『ありがとう。よろしく』

 俺に娘のことを託すと、小田切院長は踵を返して病院の廊下を小走りする。院内なのであまり音を立てないように気を遣っていて、少し変な走り方になっていた。

 愛花先生のために急いでいるのだと思うと、関係のない俺まで微笑ましい気持ちになる。

 医師同士の夫婦ではわかり合えることも多いだろうが、苦労も多いはず。

 しかしそれを感じさせないくらい、どんな時でも愛花先生への愛情表現を怠らない院長に、医師としてだけでなく男としても尊敬の念を抱いた。

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