一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
ちょうど杏先生にあの夜のことを聞いてみたかったタイミングでの、小田切院長の依頼。
これは、今夜こそ逃げずに杏先生と向き合えという神の思し召しに違いない。
そんなことを思いながら医局に戻ると、彼女は小さな背をめいっぱい伸ばして書架の最上段から本を取ろうとしていた。
俺より三十センチ以上小さい彼女の身長ではさぞ不便だろうなと、こんな時いつも思う。しかしそこが杏先生のかわいいところでもあるので、ずっとあのサイズでいてほしいとも思う。
高いところにあるものなら俺がいくらでも取ってやるし、いつかあの小さな体を、自分の腕の中に閉じ込めてみたい――。
……って、なんだか杏先生に対する独占欲が前より増していないか?
自覚すると急に照れくさくなり、気を取り直すように彼女に声をかける。
小田切院長からの伝言を伝えてすぐ帰るよう促すと、不満そうにしながらも最後には従ってくれた。
彼女が院長たちと暮らすマンションは病院から近く、仕事の話をしながらあの話題を振るタイミングをうかがっているうちに到着してしまった。
別れ際に慌てて話を切り出した俺は、いきなり魔法少女だなんてワードを出して杏先生に引かれないよう、『不法侵入者』という言葉でシリアスさを醸し出しつつ、徐々に核心に触れた。
杏先生はぽかんとした後、盛大に俺の見た魔法少女の存在を否定する。