一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
忙しさに追われ一日中病院にいるので、夏らしさを感じることもなく日々が過ぎて行く。
そんなある日、昼休みにパソコンで来月のシフトをぼんやり見ていたら、一日だけ杏先生と休みがかぶっている日があった。オンコールでもない、正式な公休だ。
杏先生をどこかへ誘ってみようか……。ふと、そんな思いつきが脳裏をかすめる。
あれからも表面上はただの指導医を装っているが、杏先生の存在は俺の胸の内で確実に広がっていた。
あの夜見た姿は関係なく、努力家でひたむきに仕事に向き合う彼女の人柄、そして時折こぼれる愛らしい笑顔に、純粋に惹かれているのだと思う。
このまま一線を引いて接し続けるのが苦しくなる日もきっと遠くない。
今でさえ、彼女が仕事とは関係のない話で他の男性医師に笑顔を向けている場面に出くわしたりすると、軽い嫉妬を覚えて胸が騒ぐのだ。
そんな不毛な感情を抱くくらいなら、さっさとアプローチして自分のものにしてしまった方が健全なやり方だろう。
杏先生にこの気持ちを伝え、あわよくば将来の約束もしたい。
そうすれば、やれ見合いだ結婚だと騒ぐ両親を黙らせることができるし、俺は杏先生と甘い新婚生活を送れる。俺にとってはいいことづくめ。
ただ、一番大事なのは杏先生の気持ちだ――。