一途な脳外科医はオタクなウブ妻を溺愛する
そわそわしながら医局内に彼女の姿があるか探していたら、廊下の方から戻って来る姿が見えた。
病院内にあるパン屋で昼食を調達してきたらしく、溢れそうなほどパンが詰まったエコバッグを抱えている。
どことなくうれしそうな表情、昼食分にしては多すぎるパン、ちょこちょこと小股で歩く姿……どれをとってもかわいくて、ついジッと眺めてしまう。
視線に気づいた杏先生が、ニコッと笑った。
「千石先生、もしかしてパンが欲しいんですか?」
「えっ? ……いや、そういうわけじゃ」
物欲しそうに見えたのだとしたら、パンではなくきみのせいだ。
そうハッキリ言うわけにもいかず、曖昧に言葉を濁す。
「いいですよ、何個でも好きなものどうぞ。一個百五十円のサービスデーだったので、元々みなさんにおすそ分けするつもりだったんです」
彼女が歩み寄ってきて、エコバッグの中身を見せてくれる。ひとつずつビニール袋に包まれてはいるが、小麦やバターのいい香りがふわっと鼻腔をくすぐる。
本当はこれから院内の食堂にでも行こうかと思っていたが、杏先生にもらえるパンなら日替わり定食の百倍美味しいに違いない。