院内夫婦の甘い秘密~恋と仕事と、時々魔法~
そんなすごい医師を指導医に持つ私だが、まだまだひよっこ。千石先生の技術をしっかりと目に焼き付けなくてはと、術野を映したモニターに視線を戻す。
今回の手術は、頸動脈内膜剥離術。脳の血管が詰まる脳梗塞を予防するためのものだ。
手術手順は文書で繰り返し確認したし、動画での予習もした。
それでも、人間にとって急所ともいえる頸動脈を切開するなんて!と手に汗を握ってしまう。
切開した場所にチューブを入れるため機械的に脳への血流は維持され、血圧管理も厳重、血栓予防の薬剤も投与済み。
最大限安全に行われている手術だとわかっているけれど、緊張感が和らぐことはない。
「内膜剥離、摘出に移る」
千石先生が淡々と言うと、オペナースが必要な器具を彼の手に渡す。
手術の本番はここからだ。血管の内側、コレステロールなどが蓄積してできたプラークと呼ばれる分厚くなった膜を、血管壁を傷つけないよう注意深く剥離していく。
自分だったら絶対慎重になりすぎてモタモタしてしまう自信があるが、千石先生の手際は速く、かつ正確だった。